ソフトウェアの資産計上と減価償却:開発費はいつ資産になるか
確認日 2026-10-31(調べ方)・制度は変わることがあります。個別の判断は公式の資料と専門家に確かめてください。
自社利用のソフトウェアは、将来の収益獲得や費用削減が確実と認められるなら、無形固定資産に計上します。制作中はソフトウェア仮勘定に集め、利用を始めたらソフトウェアへ振り替えて償却します。税務の耐用年数は通常5年で、会計でも原則5年以内です。SaaSの利用料は一般的に資産になりません。導入費用の扱いは基準に明確な定めがありません。
目的で変わるソフトウェアの区分
研究開発費等に係る会計基準は、ソフトウェアを制作の目的で分けて処理を定めています。受注制作、市場販売目的、自社利用の3つです。JICPAの研究資料は、現行の基準の体系ではこの3つの処理が定められていると整理しています。
| 区分 | 例 | この記事での扱い |
|---|---|---|
| 受注制作 | 顧客の注文で作るシステム | 扱いません。売上は収益認識の問題です |
| 市場販売目的 | 製品として売るパッケージ | 概要のみ。税務の耐用年数は3年 |
| 自社利用 | 社内の業務システム、自社サービスの基盤 | この記事の中心 |
自社でサービスを提供するためのソフトウェアは、販売するわけではないので判断が必要です。クラウドのベンダー側がどちらに区分するかは、研究資料でも論点として扱われています。実態に応じて経理が判断します。
資産計上の条件と開始・終了
研究開発費等に係る会計基準(四3)と、ASBJ の移管指針第8号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」(第11項)は、自社利用ソフトについて、将来の収益獲得または費用削減が確実と認められる場合に無形固定資産へ計上するとしています。確実と認められない場合や、確実かどうか不明な場合は費用です。
資産計上の開始は、確実と認められるようになった時点です。終了は、制作の作業が実質的に終わったと認められる時点です(移管指針第8号 第12項・第13項)。どちらも、それを立証できる証憑に基づいて決めます。
システムの開発工程で考えると、たとえば次のようになります。工程のどこで線を引くかは一律ではなく、下の表は編集部の整理の例です。
| 工程 | 処理の例 | 証憑の例 |
|---|---|---|
| 構想・比較検討 | 費用 | 検討資料 |
| 投資の決裁 | 確実になる時点を判断 | 稟議書、制作番号の管理台帳 |
| 設計・開発・テスト | 確実なら資産(仮勘定) | 工数の実績、外注の検収書 |
| 制作完了・利用開始 | 本勘定へ振替、償却開始 | 作業の完了報告書、最終テストの報告書 |
| 運用・保守 | 費用 | 保守契約 |
アジャイル開発では注意が必要です。研究資料は、複数の機能を同時や反復で開発すると、資産化の始期の判断が難しくなる可能性を指摘しています。スプリントごとに対象機能と工数を記録しておくと、後の説明がしやすくなります。
仮勘定から本勘定へ:仕訳とレコード
自社利用の業務システムを、外注費600万円で作る例です。2回に分けて検収し、10月1日に利用を開始します。消費税は省いています。
開発中:仮勘定に積む
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| ソフトウェア仮勘定 | 2,000,000 | 未払金 | 2,000,000 |
capex_costs| project_id | accepted_on | phase | amount | capitalizable |
|---|---|---|---|---|
| P-120 | 2026-07-31 | design | 2,000,000 | yes |
| P-120 | 2026-09-30 | build | 4,000,000 | yes |
利用開始:本勘定へ振り替える
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| ソフトウェア | 6,000,000 | ソフトウェア仮勘定 | 6,000,000 |
fixed_assets| asset_id | class | cost | in_service_on | useful_months | book_value |
|---|---|---|---|---|---|
| 3,001 | software | 6,000,000 | 2026-10-01 | 60 | 6,000,000 |
移管指針第8号は、自社利用ソフトの償却の年数を利用可能期間によるものとし、原則として5年以内としています。5年を超えるには合理的な根拠が要ります。償却方法は、一般的には定額法が合理的としています(第21項)。税務の耐用年数は、国税庁のタックスアンサーのとおり、複写して販売するための原本と研究開発用のものが3年、それ以外が5年です。無形固定資産の償却方法は定額法です(法人税法施行令第48条の2第1項第4号)。
5年の定額法で月次に償却すると、月10万円です。
償却:月次で費用にする
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| ソフトウェア償却費 | 100,000 | ソフトウェア | 100,000 |
depreciation_runs| asset_id | period | amount | book_value_after |
|---|---|---|---|
| 3,001 | 2026-10 | 100,000 | 5,900,000 |
| 3,001 | 2026-11 | 100,000 | 5,800,000 |
会計と税務で年数を変える会社では、同じ資産に2つの償却の計算を持つことがあります。編集部の設計の例は、台帳を1つにして、帳簿の種類(会計用・税務用)ごとに償却の行を作る形です。
ソフトウェア資産のテーブルの例
projects
- id PK
- name
- approved_on
- in_service_on
capex_costs
- id PK
- project_id FK
- phase
- amount
- capitalizable
fixed_assets
- asset_id PK
- project_id FK
- cost
- in_service_on
depreciation_runs
- asset_id FK
- book_type
- period
- amount
- projects 1 — N capex_costs
- projects 1 — N fixed_assets
- fixed_assets 1 — N depreciation_runs
自社の人件費を資産に含める場合は、工数の記録が基礎になります。単価の計算は配賦のロジックと同じ考え方です。
取得価額に入れるもの、費用にするもの
購入したパッケージの導入でも、何を資産に入れるかが問題になります。移管指針第8号の定めは次のとおりです。
| 費用 | 会計の扱い |
|---|---|
| 導入の設定作業、自社仕様に合わせる付随的な修正 | 購入ソフトの取得価額に含める。重要性が乏しければ費用にできる |
| 既存ソフトの仕様の大幅な変更 | 確実と認められる場合は購入ソフトの価額も含めて無形固定資産、それ以外は費用 |
| データのコンバート | 発生した事業年度の費用 |
| 操作のトレーニング | 発生した事業年度の費用 |
税務では、国税庁のタックスアンサーが次の内容を示しています。購入の場合は、購入代価に、購入の費用と事業に使うために直接要した費用を加えます。設定作業や自社仕様への付随的な修正の費用も含めます。自社製作の場合は、原材料費・労務費・経費に、事業に使うために直接要した費用を加えます。
また、次の費用は取得価額に含めないことができます。
- 計画の変更などによる仕損じで、明らかに不要となった費用
- 研究開発費(自社利用の場合は、将来の収益獲得や費用削減につながらないと明らかなものに限る)
- 間接費や付随費用のうち、合計が製作原価のおおむね3%以内の少額のもの
会計と税務で資産の範囲が違うと、差額の管理が必要です。請求書の明細を費目で分けておかないと後で判定できません。発注の段階で、見積の項目をこの分類に合わせてもらうのが実用的です。
クラウド導入費用の扱い
SaaSの利用者側の処理については、JICPAの2022年の研究資料が、現行の基準に明確な規定はないと述べています。この資料は実務指針ではなく、実務を拘束しません(Ⅰ.2)。一つの考え方として読みます。
| 項目 | 研究資料の考え方 |
|---|---|
| 月額などの利用料 | 発生に応じて費用。サービスの対価であり、ソフトの購入ではない |
| 初期設定・カスタマイズ費用 | ベンダーがソフトを保有しているなら、「ソフトウェア」としての計上は難しい。一時の費用が考えられる |
| 資産計上できる場合の科目 | 条件を満たせば(長期)前払費用が考えられる |
| 費用化の期間 | 通常は契約期間。更新の見込みは実態で検討 |
| リースへの該当 | 特定の物件と整理されるケースは少ないと考えられる |
研究資料は、実務では同様の取引でも一時の費用とする場合と利用期間で費用化する場合があると書いています。税務については、ベンダー側にあるカスタマイズの費用を一括で支払った場合に繰延資産とし、5年で償却する見解があると紹介しています。決まった結論として扱わず、経理と監査法人に確認してください。
SaaSの費用を前払いで払う会社は、ベンダーの契約負債の月次按分の裏返しの処理になります。
開発が止まったとき、使わなくなったとき
開発を中止した案件の仮勘定や、利用をやめたソフトウェアの残高は放置できません。中止の判断や除却の処理は個別の判断になるので、システムとしては次の情報を出せるようにしておきます。
- 長期間動きのない仮勘定の案件一覧
- 利用を終えたシステムの資産番号と帳簿価額
- 機能の一部だけを置き換えた場合の、対象部分の金額
よくある質問
- 自社利用ソフトウェアの耐用年数は何年ですか?
- 法人税では、複写して販売するための原本と研究開発用のものが3年、それ以外が5年です。会計では利用可能期間で決め、原則として5年以内とされています。
- SaaSの月額利用料はソフトウェアとして資産計上しますか?
- 一般的には資産計上せず、利用に応じて費用にします。JICPAの研究資料も、サービスの対価でありソフトウェアの購入ではないという考え方を示しています。
- 保守費用は資産になりますか?
- 通常の不具合の修正や運用の費用は、一般的に費用です。機能を大きく追加して将来の費用削減などが確実な場合は、資産計上を検討します。個別に経理と判断します。
- SaaSの導入で支払った初期費用はどう処理しますか?
- 明確な基準がなく、実務では一時の費用とする場合と利用期間で費用化する場合があります。契約内容を見て、経理と監査法人に確認して方針を決めます。
出典